なぜ地籍調査が進まなかったのか
さてこの地籍調査、なぜこんな状態になってしまっているのでしょうか。
まず最初に挙げられるのは、“地籍調査が地方公共団体(主に市町村)任せになっていた”ということでしょう。未着手市町村の中には、地籍調査の必要性や有効性については一定の理解を示しているものの、財政状況が厳しい、長期にわたって財政的・人員的負担が必要となるのではないか、といった理由から調査に踏み切れないところもある。あるいは、地籍調査の効果を受けるべき道路管理部局や都市計画部局などが、国・都道府県からの補助により行われる地籍調査の仕組み自体を知らないケースもあったからともされています。
また上記以外にも、現実的な問題点として
- 境界の確認などに時間と手間がかかる(関係者全員の立ち合いが必要)
- 都市部:調査に費用や時間がより多く必要。実態として土地取引は行われてしまっているのであまり必要性を感じられていない
- 山間部:登記所の図面の精度が悪く、立ち入りが困難な場所が多い。土地所有者等の高齢化や不在村化が他の地域と比べて著しく進行しており、土地の境界の確認に必要な人証や物証がとれない
ということがあります。
ともあれ現在、日本の土地情報はかなり正確性に欠けるといえるでしょう。
地籍調査の流れ
ではここで地籍調査の流れについて確認していきましょう。
上記の手続きで最も重要なのは、③境界確認(一筆地調査)です。
ここで大切なことは、地籍調査とはあくまでも土地所有者間の合意によって確認・決定するものであり、市町村が決めるものではないということです。(所有者の死亡や欠席となる場合は相続人や委任状を持つ代理人により境界確認の立会を行います。)
地籍調査のこれらの一連の作業は概ね3年程度かけて行われます。
地籍調査は土地所有者全員の立会のもと確認・合意して行う
地籍調査の経費
地籍調査の実施に必要な経費は、国、都道府県、市町村等が、それぞれ経費の一部を負担します。
市町村が地籍調査の実施主体となる場合には、国が経費の2分の1を負担し(「地籍調査費負担金」)、都道府県が4分の1、残りの4分の1を市町村が負担します。
さらに、都道府県や市町村が負担する経費は、それぞれの 80%が特別交付税措置の対象となっていることから、実質的には、市町村は5%の負担で地籍調査事業を実施することができます。
なお、地籍調査の対象となる土地所有者の経費負担はありません。
■ 地籍調査費の負担割合
地籍調査は土地所有者の経費負担はない
地籍調査の今後の流れ
さて、ここまで地籍調査の現状と流れについて確認してきました。
地籍調査によって境界が明確化されることにより土地取引を円滑化でき、調査結果を活用することで登記手続きも簡素化できます。
また、災害時において、たとえ現地の境界目印がなくなったとしても、緯度経度の座標軸で数値化された地籍調査データがあればスムーズに境界の復元が可能になります。
さらに固定資産税の公平性も確保するためには早急な日本全体の地籍調査完了が必要となります。
地籍調査は地方公共団体が実施主体ですが、冒頭にもふれたように遅々として進捗が進まないため、昭和38年には「国土調査事業十箇年計画」が閣議決定され、ほぼ10年ごとに実施すべき調査面積を定めた計画策定があり、調査進捗の促進が行われています。
また、都市部や山村部の地籍調査促進として、国の直轄事業の「都市部官民境界基本調査」「山村部境界基本調査」も実施されており、実施主体である市町村の負担を軽減する施策も講じられています。
土地の情報は権利や財産に大きく絡む部分でもあり、その情報が明治時代からうやむやになったままというのは本当に驚くべきことですが、ある意味日本の縦割り行政の弊害が露呈したといってもよいでしょう。
主管の国土交通省に加え、法務省、農林水産省、林野庁が各地方公共団体と連携して、一日も早い国土の地籍調査100%完了を推進してもらいたいものです。
地籍調査についてはこちらをご参照ください。